柏書房株式会社KASHIWA SHOBO

ビッチな動物たち 雌の恐るべき性戦略

女性(雌)とは弱い性なのだろうか?

定価
3,080円(本体 2,800円)
刊行
2023/08/24
ISBN
9784760155279
判型
四六判
ページ数
434
ジャンル
自然科学・建築

内容・目次

内容

 動物学も文化の影響は受けてきた。ダーウィンが進化論を唱えたのは150年以上前のヴィクトリア朝の時代。画期的な理論を発表したものの、当然、彼の考えにも当時の女性観が反映されていた。その結果、調べる対象となった動物はすべて雄だったのだ。誰ももう一方の雌を調べようとはしてこなかった。そのため両性を見比べた科学的で正確な検証がなされず、たまたま雄に見られるものを動物のすべてにはめ込んだ歪んだ見方がまかりとおってきたのだ。当時は女性には人生で重要な役割があった。結婚して出産し、場合によっては夫の興味関心や仕事を支えることだ。そもそも雌は成長が遅延するものとされた。小さく、ひ弱で、色も地味なことで、その種の若いものに似ていたのだ。雄のエネルギーが成長に費やされるなら、雌のエネルギーは卵子に栄養を与え、赤ちゃんを育てるのに必要とされた。雄は一般的により体が大きいため、雌より複雑で変化に富み、精神面のキャパシティも上回るとされた。雌は平均的な知能とされたが、雄は大きく異なり、雌には見られない天才的な域まであるとみなされた。要するに雄は雌に比べてより進化しているとみなされたのだ。


 これまで動物の雌雄の役割については、人間での男女の役割を基準にその行動や社会的地位が調べられてきた。つまり雄は雌より優位であり、一夫一婦制が動物にも見られれば、これは倫理的な行動だなどと決めつけてきた。本当だろうか。実はこれらはジェンダーバイアスによって男性優位の社会や文化が生み出した歪んだ見方だということがわかってきた。動物が種の保存のために遺伝子(子孫)を残そうとするなら、それは雄だけに限ったものではないはずだ。アザラシがハーレムを作ると、動物の雄にはそうした志向が強いなどと安直に結論づける。本当だろうか。もし互いの性が子孫を残しつつ遺伝的多様性を獲得するなら、雄だけでなく雄雌ともに熾烈な生存競争をしていると考えるべきだ。だから雄と同様雌も積極的に子孫を残す(浮気する)のだ。


 本書は、ジェンダー政策が表だって社会的な問題として認識されるようになった時代に、私たち以外の動物界は女性であることの本質について何を教えてくれるかということを述べている。性別のステレオタイプの犠牲者は人間だけではない。動物種の雌の一般的なイメージは、献身的な母と誠実なパートナーのそれであり、消極的で内気な弱い性のそれなのだ。これらのステレオタイプは、私たちが他の動物を認識する方法になぜか組み込まれている。溺愛する母親もいるが、自分では卵を捨てて、寝取られたオスの集団に任せて育てさせる鳥のレンカクもいる。女性は誠実であることもできるが、種の7%だけが性的に一夫一婦制であり、多くの浮気性の雌は子孫の遺伝的多様性を高めるために複数のパートナーと狡猾なセックスをしたり(ほとんどの鳥類)、あるいは私たちの最も近いいとこであるチンパンジーの場合には父親をわからなくさせるために複数のパートナーとセックスをしたりしている。さらに驚くのは同性愛でも異性愛でもなくバイセクシュアルなボノボ、アホウドリは雌同士で卵をかえしているという事実などなど。すべての動物社会が男性に支配されたり、雄雌の役割を果たしたり、さらには雄を必要とする生活をしているわけではない。


 アルファ雌は、非常に多様な種類にわたって進化してきた。雌は雄と同じようにお互いを競い合い、種によっては非常に攻撃的になることもある。アンテロープのトピは最高の雄を奪い合うためにその巨大な角で血みどろの戦いを繰り広げ、ミーアキャットの女家長は地球上で最も殺人的な動物であり、競争相手の赤ちゃんを殺して繁殖を抑制する。恋人を食料とする共食いのメスのクモや、雄を完全に排除してクローンのみで繁殖する「レズビアン」のヤモリなどもいる。何世紀にもわたって、動物の女性性の自然なスペクトルの多くは無視されてきた。文化的な偏見に目を奪われた科学者たちは、動物をその時代の社会に見られる役割のなかに投げ込んだのだ。ダーウィンは、男性は支配的で活動的で「情熱的」であるのに対し、女性は受動的で「臆病」で一夫一婦制を求めるという見方をした。これらの考えは、その賞味期限をはるかに超えて、科学の世界に残存している。ダーウィンの足跡を継いだ生物学者たちは、確証バイアス(都合にいい例だけを集めること)に苦しみ、これらのレッテルを裏づける証拠を探し、ライオンの淫乱な性癖や雌のキツネザルの攻撃的な優位性など、ふさわしくない例外を一生懸命無視するようになった。このように雌の役割については男性目線での都合のいい偶像作りが行われた結果、雌の本来の意味が研究されてこなかったのだ。本書は、本当の雌とはどういうものか、「Bitch」というタイトルで、男目線の幻想をひっくり返すべく、挑発的かつ面白く事例をあげ証明していく。男性が求める女性像を破壊しつつ、本当の女性(雌)とは何かを明らかにする。


【著者略歴】
ルーシー・クック(Lucy Cooke)
ニューヨーク・タイムズでベストセラーとなったナマケモノの絵本『ナマケモノでいいんだよ』の著者。ナショナルジオグラフィックのエクスプローラーでTEDトークにも出演している。テレグラフやハフィントンポストに寄稿しており、ドキュメンタリー映画の製作者でもある。オックスフォード大学で動物学の修士号を取得(リチャード・ドーキンスの指導を受けた)。イギリスのヘイスティングス在住。


【訳者略歴】
小林玲子(こばやし・れいこ)
国際基督教大学教養学部卒業。早稲田大学院英文学修士。訳書に『メスト・エジル自伝』(東洋館出版)、『ユリシーズを燃やせ』『クリエイターになりたい!』(共に柏書房)、『世界一おもしろい国旗の本』(河出書房新社)、『子どもには聞かせられない動物のひみつ』(青土社)などがある。


目次

序文
第1章 性の混沌――雌という存在について
第2章 配偶者選択とは何か――謎解きはロボバードにお任せ
第3章 単婚神話――奔放な雌、キイロショウジョウバエ騒動
第4章 恋人を食べる50の方法――性的共食いという難問
第5章 愛の嵐――生殖器をめぐる戦い
第6章 ノーモア・マドンナ――無私の母親、空想の動物たち
第7章 ビッチ対ビッチ――女の争い
第8章 霊長類の政治学――シスターフッドの威力
第9章 母権制社会と閉経――シャチとヒトの絆
第10章 わたしたちは自力でやる――雄のいない雌たち
第11章 二項対立を超えて――進化の虹
終章 先入観のない自然界


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