柏書房株式会社KASHIWA SHOBO

近刊

まじめに動物の言語を考えてみた

定価
2,860円(本体 2,600円)
刊行
2025/05/09
ISBN
9784760156061
判型
四六判
ページ数
328
ジャンル
自然科学・建築

内容・目次

内容

 誰もが動物と会話したいと思っている。はたしてそれは可能なのだろうか。残念ながらこれまでの研究では明確な答えが出ていない。なぜなら、私たちはそれを調べる方法を間違えているからなのだ。
 それを実現するには、動物が発する音(声)を調べて、それを人間の言葉に「翻訳」するのではなく、動物がなぜそのような行動をとるのか、その行動はどこから来るのか、そしてその行動を支えるために彼ら特有のコミュニケーションがどのように進化してきたのかを理解する必要があるのだ。しかも実験室の中ではなく動物たちが棲む本来の場所でのコミュニケーションを知らなければならないのだ。つまり、動物のコミュニケーションを彼らの視点から見ることが大事になる。
 この本の目的は、すべての動物、さらには人間のコミュニケーションに共通するものを示すことだ。もちろん、私たち人間は、他のどの動物よりも非常に多くの言語を持っている。しかし、コミュニケーションの役割は、私たちの社会性を支えることであることに変わりはない。社会で生きていくのは大変なことで、社会の歯車をスムーズに回すためにはコミュニケーションが必要となる。
 動物も同じだ。オオカミが遠吠えをするのは、相手を追い払うためだけでなく、自分がどこにいるのかという情報を家族に提供したり、助けが必要なときに仲間を呼んだりするためだ。チンパンジーは、常に変化する友情とライバルの網の目の中で生きており、コミュニケーションをとることで、すべてのチンパンジーが自分の立ち位置を知ることができるのだ。ヨウムのように、まるで人間のような言語能力を持つ動物もいるが、彼らの会話能力のルーツは、何百羽ものヨウムが一緒に暮らすコロニーで、食べ物や捕食者、そして主にお互いについての情報を共有するという不思議な共同生活にもあるようだ。人間と同じように自然の法則に従って進化してきた動物と人間は、同じコミュニケーション・ニーズを持ち、同じようなコミュニケーション・ソリューションに到達してきたのだ。
 動物がしゃべるといっても、単純な要求に基づいて単純なコミュニケーションをしているのかもしれない。しかしそれこそが動物を理解する方法なのだ。なぜ動物が話すのか、話す必要があるのかを理解することで、初めて動物のコミュニケーションが理解できる。著者は自分自身のフィールドワークでの観察をもとに、動物の行動を科学的に明らかにしていく。
 各章は前の章を土台とし、動物のコミュニケーションの複雑さについて新たな特徴を加えながら、統合的な物語を描いていく。最終的には、人間の言葉を含むコミュニケーションが、動物の社会的行動全体とどのように関わっているのか、その全体像が明らかにされる。オオカミにしろコミュニケーションがなければ社会性は持ちようもない。そこには社会的ニーズがあるのだ。そしてそれを使って問題を解決する。そこに知性が生まれる。おそらく動物たちのコミュニケーションの重要性を認識することで、種間のコミュニケーションの問題へと関心は広がっていくはずである。


【著者略歴】
アリク・カーシェンバウム(Arik Kershenbaum)
気鋭の動物学者、動物の音声コミュニケーションの分野における世界的な第一人者であり、10年以上にわたりヨーロッパ、北米、中東、東南アジアの荒野を歩き回り、その分析に取り組んできた。ケンブリッジ大学ガートン・カレッジの講師および研究員であり、30以上の学術論文を発表している。前著『The Zoologist’s Guide to the Galaxy(邦訳、まじめにエイリアンの姿を想像してみた、柏書房)』はタイムズ/サンデー・タイムズ・ブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、11言語に翻訳された。


【訳者略歴】
的場知之(まとば・ともゆき)
東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科修士課程修了、同博士課程中退。訳書に、ロソス『生命の歴史は繰り返すのか?――進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む』、ピルチャー『Life Changing――ヒトが生命進化を加速する』(以上、化学同人)、クォメン『生命の〈系統樹〉はからみあう――ゲノムに刻まれたまったく新しい進化史』、ウィリンガム『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』(以上、作品社)、スタンフォード『新しいチンパンジー学――わたしたちはいま「隣人」をどこまで知っているのか?』(青土社)、王・蘇(編)『進化心理学を学びたいあなたへ――パイオニアからのメッセージ』(共監訳、東京大学出版会)、マカロー『親切の人類史――ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』(みすず書房)、グレッグ『もしニーチェがイッカクだったなら?――動物の知能から考えた人間の愚かさ』(柏書房)、ロソス『ネコはどうしてニャアと鳴くの?――すべてのネコ好きに贈る魅惑のモフモフ生物学』(化学同人)など。


目次

序章 みんなが話してる……誰も言葉を発していないけど
第1章 オオカミ
第2章 イルカ
第3章 インコ
第4章 ハイラックス
第5章 テナガザル
第6章 チンパンジー
第7章 ヒト
終章 もしも動物と話せたら……


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