柏書房株式会社KASHIWA SHOBO

新刊

民主至上主義

民主主義=反民主主義? 気鋭の学者が民主主義論に隠された思考様式や認識枠組み=エリート主義を暴く警世の書!

定価
3,300円(本体 3,000円)
刊行
2024/08/22
ISBN
9784760155705
判型
四六判
ページ数
406

内容・目次

内容

★推薦コメント
「民主主義を脅かすのは、民主主義そのものかもしれない。理想主義的な秩序を夢みるあまり、人々の現実の政治参加をはばむ思想――〈民主至上主義〉を鋭く批判する問題作!!」
――宇野 重規(東京大学社会科学研究所教授/『民主主義とは何か』著者)


「エミリー・フィンレイは(中略)〈民主至上主義〉の核となる教義を巧みに浮き彫りにしている――すなわち民主主義のなかにある、〈人民〉を信じず、さらには軽蔑しさえする特殊な信念を」
――パトリック・デニーン(ノートルダム大学教授/『リベラリズムはなぜ失敗したのか』著者)


★内容紹介
民主主義をかたる全ての人へ。
そろそろ民主主義そのものを批判的に検討してみる必要があるのでは? 


東京都知事選やアメリカ大統領選など、ことあるごとに「民主主義の危機」が声高に叫ばれている昨今、巷には「民主主義を守れ!」と言わんばかりの言説が溢れかえっている。
しかし、なぜ民主主義は危機に瀕しているのだろうか? そもそも、それは本当に「危機」なのだろうか? そしてもし民主主義をめぐる思想・議論のなかに、民主主義を土台から掘り崩すような要素が胚胎しているとすれば……? 


「民主主義は反民主主義的であるのだろうか?」(本書序章より)
このスキャンダラスかつセンセーショナルな問いで幕を開ける本書は、まさにこうした問題意識から民主主義そのものを問い直す1冊である。


著者は、ジャン=ジャック・ルソーにはじまり、ジェファーソンやウィルソン、新保守主義者によってアメリカ政治の文脈で実践に移された民主主義の道程をたどり直し、民主主義論に不可避的に付随するエリート主義的な発想を剔抉する。
そうして明らかになるのは、「民主主義」「自由」「平等」を言祝ぎながらも、あらかじめ恣意的に決められたロマン主義的な理想へと人民を自ら教え導き、同時にその理想に追従しない人々を排除する民主主義論者たちのイデオロギー的本性――〈民主至上主義Democratism〉である!


なぜ今なおトランプが支持されるのか? 
なぜ政治的分断は深まるばかりなのか? 
なぜ政治に声が届いていないと感じるのか? 
それらすべての一因は、他ならぬ民主主義それ自体のなかにある!!


本書は、現代の民主主義社会に生きる読者一人ひとりに問いかけている。
「あなたは、あなたが思うほど民主的か?」


※本書は、The Ideology of Democratism, Oxford University Pressの日本語訳である。


【著者略歴】
エミリー・B・フィンレイ〈Emily B. Finley〉
ペパーダイン大学講師。トリニティ大学で古典学の学士号を取得後、アメリカ・カトリック大学にて政治学博士号を取得。専門は政治思想史。プリンストン大学とスタンフォード大学に博士研究員として勤務しながら、“Wall Street Journal”をはじめとする雑誌に記事やエッセイを寄稿。また、政治・文学・文化についての学術誌“Humanitas”の共同編集者を務める。


【訳者略歴】
加藤哲理〈かとう てつり〉
1981年生まれ。名古屋大学大学院法学研究科教授。京都大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は政治思想史。著書に『ハンス=ゲオルグ・ガダマーの政治哲学』(創文社、2012年)。編著に『ハーバーマスを読む』(ナカニシヤ出版、2020年)など。


目次

序文
謝辞


第1章 ジャン=ジャック・ルソー
はじめに/社会契約論の伝統/「一般意志」の起源/ルソーの一般意志/一般意志と立法者/教育の理念/ルソーの哲学的人間学/ルソーと民主至上主義におけるグノーシス主義的思考/新たなルソー的世界観


第2章 民主至上主義の定義に向けて
はじめに/民主至上主義の空想的要素/民主至上主義 対 共和主義/リーダーシップについての民主至上主義の理論/民主至上主義と絶対主義/教育と人間本性/民主主義の歴史哲学/民主主義的帝国主義の外交政策/民主至上主義と民主的正当化/将来への含意/民主主義諸国における民主主義の春? 


第3章 トマス・ジェファーソン
はじめに/土地均分論と庶民に対する信仰/ジェファーソンの教育哲学/「自由の帝国」/ジェファーソンにおけるキリスト教と民主至上主義/ジェファーソンの自惚れ


第4章 ウッドロー・ウィルソン
ウィルソンにおけるリーダーシップ/レトリックの役割/ウィルソンの統治観/教育/ウィルソンの戦争観/平和から戦争へ/市民の自由と戦時プロパガンダ組織/ウィルソンの戦争、ヨーロッパの「平和」/ロマン的な理想主義と民主至上主義


第5章 ジャック・マリタン
はじめに/民主主義のキリスト教的系譜学/「人格主義的な民主主義」/新たなキリスト教的平等/自由主義とカトリック/教皇と民主主義的な福祉国家/世俗内における贖罪/民主主義の唯物的弁証法/民主主義における前衛理論/民主至上主義の世俗的信仰と近代におけるグノーシス主義/キリスト教と民主主義の競合する視点/グローバルな民主主義的秩序/マリタンの民主至上主義の遺産/結論


第6章 熟議民主至上主義
はじめに/手法/熟議民主主義の中心概念/ユルゲン・ハーバーマス/ジョン・ロールズ/理性の自律?/熟議における平等/熟議民主主義はどれほど民主主義的なのか/「認識的エリート主義」/あらかじめ決められた結論に導く道徳幾何学/具体のうちにおける熟議民主主義/熟議民主主義における想像への定位


第7章 新保守主義、あるいは戦時民主至上主義
はじめに/「新保守」という用語/レオ・シュトラウスと自然的正/アメリカ史の新保守主義的な読解/アメリカ、例外的国家/「公共的利益」/灰燼から生まれる民主主義/文化戦争と武力使用/戦時共産主義後の「民主主義的」戦略/道徳的英雄主義の視点/「ほんものの」民主主義はすぐそこに来ている/民主至上主義の理想主義と暴力の蔓延/結論


第8章 結論


訳者解説に代えて