柏書房株式会社KASHIWA SHOBO

攻撃される知識の歴史 なぜ図書館とアーカイブは破壊され続けるのか

定価
3,300円(本体 3,000円)
刊行
2022/04/22
ISBN
9784760154425
判型
四六判
ページ数
392
ジャンル
総記・図書館

内容・目次

内容

古代から文字によって記録されてきたもの、粘土板、巻物、書籍、住民の公的な記録、手稿、手紙など、その土地に住む人々の文化的な記録は、歴史上、故意にあるいは忘れ去られることで幾度も破壊が起きてきたことを説明しつつ、その過程でライブラリアンやアーキビストがどのように戦ってきたかを記す。


これまで、例えば図書館の存亡の歴史を扱う書籍では、その維持費用や、関心が持たれなくなって廃れたり、災害で失われたり、戦争で、敵国によって破棄されたりという、あくまで図書館とその蔵書がどうなったかを描いてきた。それに対して、本書は、図書館と書籍だけを考察するのではなく、文字で記録されたあらゆる内容は「知識」として保存されたもので、それをいかに後世のわれわれが、振り返って読んだり、活用しているかを考え、その貴重な「知識」の破壊が進んでいることに警鐘を鳴らす。たとえば、古代では、ニルムードのナブー神殿から資料保管室が見つかっており、そこから多量の粘土板が発見された。その中から不利な契約が書かれた粘土版が意図的に踏みつぶされているのが見つかっている。それは現代の公文書の破棄や改竄も同様で、つねにわれわれの蓄積された知識は遺棄される方向い動いている。こうした動きに対して抵抗した人々の活躍や、遺棄に際して考えるべき点も明らかにしていく。必ずしも図書館の破壊という観点だけでなく、個々人の書いた原稿や日記などの扱いについても、その公表にかかわる問題点を述べる。


特に、ヨーロッパでは宗教改革など、宗派の対立から起きる敵対派閥の書籍の破棄などにも言及する。これらの知識はキリスト教会が独占してきたため、図書館というより修道院に図書が保存されてきた。それをこの対立が破棄に向かわせることになった。


粘土板にしろ文字で書かれた情報というのは、それ以前の時代とは比べものにならない価値があった。たとえば何かの作りかたを記述すると、その作り方を知らない人がそれを読むことで同じ物を作ることができるようになる。しかも文字を読める人が少なかった時代では、その記述はあたかも魔法の呪文のようにも思えた。だからこそその貴重な図書を古代の王たちは集めて保存した。それがムセイオンであり、アラブでは知識の館となった。そうした知識に対して、宗教などが価値を否定したために、無視されたり破棄されてきた歴史を振り返るのが本書だ。そして図書館からさらに広く、カフカの例を挙げその小説という書かれた原稿の存続にも触れている。カフカは自分の書いた小説を絶対に公表するなと言って死んでしまった。しかしそれを託され友人がその意図に逆らって、原稿を故意に残したことで、われわれはその小説を読めるようになった。しかしバイロンの回想録は失われてしまった。シルヴィア・プラスの詩や日記は本人以外の手が入っている。こうした公表や非公表の問題もからめて解説していく。


また最近のデジタル情報の保存については、テクノロジー企業にそれが独占されていること、その会社の方針で簡単にデータが失われること、安易にデジタル情報に図書館のような役割を期待する考えの危険性などについても言及する。本書はこうしたあらゆる知識の保存とそこに記録された人々のアイデンティティーの問題まで幅広く考えていく。


【目次】
はじめに
第1章 土に埋もれた粘土板のかけら
第2章 焚きつけにされたパピルス
第3章 本が二束三文で売られたころ
第4章 学問を救う箱舟
第5章 征服者の戦利品
第6章 守られなかったカフカの遺志
第7章 二度焼かれた図書館
第8章 紙部隊
第9章 読まずに燃やして
第10章 降り注ぐ砲弾
第11章 帝国の炎
第12章 アーカイブへの執着
第13章 デジタル情報の氾濫
第14章 楽園は失われたのか?
結び 図書館や公文書館はなぜ必要なのか
原註
参考文献


【著者】
リチャード・オヴェンデン(Richard Ovenden)
2014年からボドリアン図書館の館長(25代目)を務める。それ以前は、ダラム大学図書館、貴族院図書館、スコットランド国立図書館、エディンバラ大学に勤務していた。ダラム大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで教育を受け、オックスフォードのバリオール・カレッジの研究員。2019年の女王誕生記念叙勲で大英帝国勲章のオフィサー(OBE)に指名された。著書に『John Thomson (1837-1921) : Photographer』、『A Radical’s Books』(マイケル・ハンター、ジャイルズ・マンデルブロート、ナイジェル・スミスとの共著)などがある。


【訳者】
五十嵐加奈子(いがらし・かなこ)
翻訳家。東京外国語大学卒業。主な訳書にニコラス・グリフィン『ピンポン外交の陰にいたスパイ』、ローラ・カミング『消えたベラスケス』、エドワード・ウィルソン=リー『コロンブスの図書館』(以上、柏書房)、デボラ・ブラム『毒薬の手帖』、リー・メラー『ビハインド・ザ・ホラー』(以上、青土社)、ジョン・クラリク『365通のありがとう』(早川書房)などがある。


目次

はじめに第1章 土に埋もれた粘土板のかけら

第2章 焚きつけにされたパピルス

第3章 本が二束三文で売られたころ

第4章 学問を救う箱舟

第5章 征服者の戦利品

第6章 守られなかったカフカの遺志

第7章 二度焼かれた図書館

第8章 紙部隊

第9章 読まずに燃やして

第10章 降り注ぐ砲弾

第11章 帝国の炎

第12章 アーカイブへの執着

第13章 デジタル情報の氾濫

第14章 楽園は失われたのか?

結び 図書館や公文書館はなぜ必要なのか

原註